ニコンプラザリニューアル

2021.3.31| デザインワーク

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カメラのショールームやサービスセンター、カレッジ、ギャラリーなどを兼ね備えた施設、ニコンプラザ。2020年に東京・大阪の2拠点でリニューアルされ、ユーザーとニコンとが共創する、新たな体験の場へと生まれ変わりました。「新生ニコンプラザ」に込めた思い。
新宿にある「ニコンプラザ東京」のリニューアルプロジェクトを通じてご紹介します。

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デザインセンター
Life Imaging Lab
不破 健男
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デザインセンター
Life Imaging Lab
尾見 淳一
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ニコンイメージングジャパン
カスタマーサポート部
ニコンプラザ課 マネジャー
笹尾 英樹

体験をデザインする

「私たちのまわりは情報であふれています。一方で、いろいろなことを知ったつもり、体験したつもりになっているのに、自分の中に蓄積されていかない。記憶に残らない。そんな状況に、満たされない気持ちや、もどかしさを抱えている人も多いのではないかと思います」
そう話すのは、UXデザイナーの不破。

「だからこそ、自らが体験して得た価値、記憶や思い出に残り、色褪せないものが求められている。モノからコトへ、という世の中の流れの背景にあるのは、そういうことなのではないかと思うのです」

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不破の携わるUXデザイン、つまりユーザーエクスペリエンスデザインとは、製品だけでなく、体験を設計するというもので、さまざまなニコン製品の開発に活かされています。
ニコンは、これまでにない新たな体験の場をつくりあげていくために、ニコンプラザにもこの考え方を取り入れたいと考えていました。
情報があふれる社会で、心に残る体験を提供するために。そして、お客さまに日々の暮らしをより楽しく豊かに送っていただくために。チームの挑戦が始まりました。

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ニコンだからこそ
届けられるもの

では、どのような場として生まれ変わるべきなのか。販売現場から商品企画までを経験し、長年にわたってカメラユーザーと向き合ってきた笹尾には、ひとつの想いがありました。

「カメラの機能や性能をレベルアップさせることは、もちろん大切です。しかし、お客さまに『使ってみたい』と思っていただくには、体験そのものをより有意義なものとすることが欠かせません。私たちニコンだからこそ、お客さまにお届けするべき体験とは何なのか。そこの検討に時間をかけました」

表現。それが議論の末、チームの導き出したキーワードです。

「私はキャリアの中で、ずっと最高のカメラをつくるということに力を注いできました。『今の時代に求められるのは、モノよりコトである』とはよく言いますが、とことんモノを突き詰める立場だったわけです」
今回のプロジェクトの一員で、カメラ設計者としての経歴を持つ尾見は、そう話します。

「美しい画が撮れるということはもちろん、耐久性や信頼性の高さについては『やりすぎなんじゃないか』というくらいにこだわってきたと思います。けれど、決してスペックだけを追い求めていたわけではありません。その奥底にあったのは、『何かを残そう、伝えよう』とする人の気持ちに応えることだったのだ──議論を重ねてみて、改めてそう気づいたのです」

何かを残そう、伝えようとする人。それは、必ずしも写真家やアーティストだけではない、と不破は話します。

「たとえば、冒険家やジャーナリスト。彼らも表現者だと思います。誰も見たことのない風景や出来事を見るため伝えるために厳しい環境にも果敢に挑み、世界に驚きや感動を届けている。彼ら、彼女らの生き方そのものがひとつの表現であり、作品でもありますし、そんな場面で活きたのが、信頼性や耐久性に優れるニコンのカメラでした」

カメラという道具だけでなく、そこから生まれること。つまり、表現を通じた豊かな時間や、生き方を提案できる場所。新しいニコンプラザのコンセプトが、徐々に明確になっていきます。

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表現の可能性を伝えるために

そもそも、表現とは何なのでしょうか。なぜ、人は表現するのでしょうか。
表現を通じたユーザーエクスペリエンスを掘り下げるため、不破はチームとともに、議論を深めていきます。

「心の中にあるものをアウトプットしたいという、自分自身のために行うものもあれば、誰かに伝えたい、共有したいという、周囲とつながるためのものもあります。一言で表現といっても、音楽やダンスなど、多くの表現方法がありますが、人間であれば誰しも表現に対する欲求を持っていると思います」

表現する。その根源的な喜びに気づいていただくためには、何を提供するべきか。

「表現すること自体は特別なことではありません。しかし、表現するものに対し自分の意思を込めることで、その表現は誰のものでもない、自分だけのものになります。それに気づいていただける場にしたい。議論の末に行き着いた答えは、これでした」

ここを起点にして、さまざまなアイディアを具現化していきました。

たとえば、タッチアンドトライ。カメラと什器を繋いでいたコードを外し、プラザ内で最新機種を持ち歩き、自由に試写ができる貸出サービスです。ここには、ニコンプラザを訪れる方と交流してきた笹尾の想いが反映されています。

「これまで、併設されているギャラリーでの写真展をご覧になったお客さまは、『ああ、いい写真だったね』と満足して、そのままお帰りになる方がほとんどでした。しかし、ここで『もしかしたら、自分にも表現できるものがあるかもしれない』という気持ちを持っていただけたら、写真や映像表現の世界はもっと広がるのではないか。そう考えました」

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それだけでなく、ユーザー自身が工夫して使える撮影スタジオや、被写体として自由に利用できるアイテムを会場内に設けるなど、誰もが自分の中に持っている表現への欲求や可能性への気づきを得られる工夫を取り入れました。
以前から開催していた写真展に加え、美術大学の学生による作品展示や、講師を招いたワークショップイベントなども開催。単にカメラが見られるショールームであることを超えた、表現にまつわるさまざまな体験ができる場所、表現者同士が互いに刺激しあえる場所へと生まれ変わったのです。

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一人ひとりの「特別な表現」と出会える場所へ

新しいニコンプラザが提供するのは自分だけの表現、すなわち特別な表現との出会いだと、笹尾は話します。
「写真に限らずさまざまな表現に触れたり、カメラを手にとったり、実際に撮影をしてみたり。そういった体験を通じ、きっとこれまでに気づかなかった自分だけのこだわりを発見してもらえるはずだと思っています。自分の中にあるイメージを、余すことなくかたちにしたい。伝えたい。そんな特別な表現の手助けをできるのが、カメラという道具であることを知っていただけたら、一人の写真好きとしてこんなにうれしいことはありません」

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会場には、訪れた方の声や要望を取り入れながら、日々進化させられる仕組みも取り入れられています。
展示に使われている什器やカウンターなどの配置は自由に変更できる仕組みになっており、照明の色や強さも細かく調整が可能。午前中に聞いた要望をもとに、午後にはレイアウトを変化させるといったことも、簡単に行えるようになっています。
メーカーからユーザーへ、という一方向のアプローチではなく、想いを同じくする表現者として、ひとつの場をつくりあげていく。そうした共創のサイクルが今、たしかに回り始めています。

「新しくなったこの場を通じて、もっと多くの人とつながることができれば、すばらしいですね。今まで接点のなかった方とも触れ合うことで生まれる化学反応を、私たち自身も楽しみたいと思います」

表現者をサポートする場、そして彼らの可能性が育つ場として、ニコンプラザはこれからも日々、進化し続けます。

表現者のために、
そして表現者と共に

不破:「表現者の意図したこと、伝えたいことを一番ブレのない形で伝えられるのが映像というものだと思います。色味やピント、カメラのいろいろな要素を駆使し、映像に想いを定着させるプロセスは、表現する動物である人間にとって、とても有意義なものになるはずです。ニコンプラザを通じて、一人でも多くの方と、表現することの喜びを分かち合えればと思います」

尾見:「多様な表現がありますが、中でも写真の魅力は、情報を凝縮して2次元のかたちにできること。記録するという行為が身近になることにあると思います。カメラを使えば、そこに撮影者の意思を込め、単なる記録を超えた、特別な記録にすることもできます。写真でさまざまな表現ができるようになった今だからこそ、改めてカメラの魅力を多くの人に伝えていきたいですね」

笹尾:「表現に関するさまざまな刺激を受けられる場として、新しい企画を次々に打ち出していきたいと考えています。私たち自身もそのプロセスを楽しんでいますし、来場される方とともに、ニコンプラザという場を盛り上げていければと思います。ぜひこれからも、ご注目をいただければ嬉しいです」

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