C3 eMotion

2020.9.7| 協働ロボット用関節ユニット

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現在、産業用ロボットの分野で注目されているのが、「ヒト協働ロボット」と呼ばれるタイプのもの。従来のように人間から隔離された場所で作業をするのではなく、人間のすぐ隣で作業を手伝う「人間と協力するロボット」です。C3 eMotionは、そんな「ヒト協働ロボット」を、特別なノウハウを持たないエンジニアが自由な発想で、そして簡単に作れるようにするために開発されました。

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プロダクトデザイナー
星 智浩(ほし ともひろ)
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グラフィックデザイナー
芦川 真之(あしかわ まさゆき)

もうすぐやってくる、となりにロボットがいる未来

C3 eMotionで最も特徴的なのは、モータの回転角度を測定するためのパーツ「エンコーダ」が2箇所に組み込まれている、ニコン独自の構造です。モータの回転角度の差から何かに接触したことをすぐに検知できるので安全。人がロボットに直接動きを記憶させることもできます。

このエンコーダに加えて、モータや減速機、駆動回路のほかブレーキなどもコンパクトに内蔵。言ってみれば、ロボットを動かす筋肉も、接触を感じ取る感覚器官も、動きを記憶する脳もワンセットになっています。そのため、ロボット設計のノウハウを持たないエンジニアでも気軽に、安全で高性能なロボットを開発できるというわけです。「C3」の「C」が表すのは「Connect(接続)」「Control(制御)」「Cooperate(協働)」。ロボットの未来に必要なものがすべて詰まっているのです。

これまで、ロボットを開発しようと思ったら、「アクチュエータはA社、エンコーダはB社、ブレーキはC社……」といったようにパーツを組み合わせなければならず、専門的な知識が不可欠でした。でも、このC3 eMotionがあれば、基本的な知識だけで、誰でも自分のビジネスにぴったりなロボットを開発できるようになるんです。

そんな夢のような世界を、どう伝えていくか。
「デザイン」の出番です。

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ロボットの「可能性」をかたちに

一般的なアクチュエータは、金属の地肌がむき出しになっており、造形も機能一辺倒。ロボット内部に組み込んで使い、外からは見えない部品なので当然といえば当然です。

しかし、C3 eMotionはこれまでにない画期的な機能を持ったアクチュエータ。それが伝わらなければもったいないと思いました。円筒形のシンプルな造形で誰でも使いやすいユニットであることを表現。カメラデザインで用いられる精密感や信頼性といった造形表現を転用し、ひと目で他と違う存在であることがわかるようにしました。

さらに、実際にロボットに組み込まれた様子がわかるよう、オリジナルの多関節ロボットのデザインにも取り組みました。

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当初は、展示会などでのインパクトを重視したメカニカルでシャープ、先進的なデザインを考えていました。しかし、コンセプトへの理解が進むうちに、アクチュエータの機能や性能そのものよりも、表現するべき大切なものがあるのではないかと考えるようになりました。

それは、C3 eMotionによって現実のものとなる、「ロボットが当たり前のように隣にいる」という世界観。優しさやフレンドリーな印象を表現することによって、見る人を魅了するデザインへと方針を転換したのです。

着脱式のアクチュエータカバーを提案し、アームの造形も、生物の“骨”に倣ったような、有機的で柔らかなものにしました。もしかしたら、展示会でのインパクトは弱くなるかもしれません。それでも、ただ注目を集めることより重要なのは、「なにか新しいことが始まった!」というワクワク感を覚えてもらうことなのではないかと思ったのです。

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見た人の創造性を刺激するために

カタログや、展示会のブースデザインも変化していきます。

通常のアクチュエータのカタログでは、いかに機能として優れているのか、というスペックを伝えてきました。でも、C3 eMotionは専門知識がなくても“自由な発想で”ロボットを開発できるという、これまでにないアクチュエータ。その本質を伝えるデザインが必要だと思いました。

最初に取り組んだのは、C3 eMotionの開発を行ったデジタルソリューションズ事業部へのヒアリング。これまで、産業用の機械に組み込まれるパーツとしての「性能」を実直に追い求めてきた部門であり、「デザイン」とコラボレーションする機会はほとんどありませんでした。開発スタッフの想いを整理し、このプロダクトの本質をクリアにしていくことからデザインが始まりました。

カタログや展示会のブースを見た人に伝えたいことについて話していると、当初は安全性、高性能、高精度といった機能やスペックの話が中心でした。しかし、その技術で何ができるのか、何をしてみたくなるのかという“体験”を深堀りしていくと、徐々に先進性、楽しさ、スマートさ、さらには「子どもの頃の憧れ」「SFのような世界」といった言葉も出てくるようになりました。私たちや開発スタッフの中にもある、この“ワクワク感”を伝えることができれば、見た人の「こんなこともできそう!」「自分だったらこうつくる!」といった“自由な発想”をもっと引き出せるのではないかと考えました。

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当初、アクチュエータとしての性能がメインに語られるはずだったカタログは、イラストを多用した親しみやすいものに。展示会ブースも、従来は当たり前だった説明用のパネルなどを廃した、これまでにないデザインの空間へと変化していきます。

私がこのプロジェクトに加わったのは「カタログに載せるイラストを描いてほしい」というオーダーがきっかけでした。ですが、そこから開発者たちの想いを丁寧に集めていったことで、イラストにとどまらず、デザインの範囲は全体の世界観にまで広がっていきました。

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開発スタッフが語るC3 eMotionのデザイン

「ニコン製品」をつくる誇り
デジタルソリューションズ事業部 湯本 一樹

「デザイン部門の方と初めてコラボレーションしたことで『ニコン製品をつくっているのだ』という誇りを感じられましたし、完成したアクチュエータにも強い愛着を持つことができました。プロダクトからカタログ、ブースのデザインまでの一貫した世界観が、C3 eMotionを唯一無二のものにしてくれたと思います」

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性能+デザインで次のステップへ
デジタルソリューションズ事業部 原 敬一

「当初、デザインは“デザイナーの感性”が生み出すものだと思っていましたが、実際には製品の機能や目指す世界観を知ることがすべての始まりになっていました。単なる“外見”ではなく、製品の“内面”を伝える手段がデザインの本質。そのことに気付かされました。性能と“よりよい伝え方”を、ともに追求すること。今後も挑戦していきたいですね」

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「デザインの力」は絶大でした
デジタルソリューションズ事業部 引地 哲也

「展示会などで『触ってみていいですか?』『やっぱりニコンのロボットはカッコいいですね』と言われると、性能を褒められるのとはまた違った嬉しさがあります。産業用ロボットなのだから、図面とスペックこそが重要なのだと信じてきましたが、“デザイン”の持つ力を改めて感じました」

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「これから」のロボット

星:「ニコンのデザインは、どこまでも人間を中心に考えた、真面目で実直なデザインが特色である一方、常に使う人の“創造性”も刺激してきたという一面も持っています。
今回のアクチュエータも、ロボット開発者の『こんなことをしてみたい』という心を刺激できるものになっていたら、これほどうれしいことはありません。
ニコンのロボット産業への参入は始まったばかりです。“光学機器のニコン”に加え“ロボットのニコン”のイメージを創っていけたらと思います」

芦川:「ロボット掃除機に“キューちゃん”と名付けてかわいがっている友人がいます。“吸引力”が名前の由来なのだとか。産業用のロボットといえども、そんな“愛着”や“ワクワク感”がビジネスを新しい領域へと加速させてくれるのではないでしょうか。
一人でも多くの人の気持ちを刺激し、『自分ならこんなことができるかも』と感じていただけるように、デザインで今後もニコンのロボットを伝えていきたいと思っています」

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