超解像顕微
技術概要
カメラや顕微鏡などの光学機器において、解像度(分解能)とは接近した2つのものを別々のものとして識別する能力を指します。一般的な光学顕微鏡は対物レンズの大きさと光の波長の関係から、その能力の限界は約200ナノメートルです。この限界を超えた高い解像度での観察を可能にする光学顕微手法が、「超解像顕微」です。
これまで見ることのできなかった細胞小器官の構造などが観察できることから、生物、医学、医療など、ナノスケール観察が必要とされるさまざまな分野の研究のさらなる発展への貢献が期待されています。
光は波であり回折する性質を持つため、一点の光を結像させた場合、その像はある程度の広がりを持ちます。この広がりにより、近接した二点の光を区別して観察することができなくなり、これを理論的な分解能の限界といいます。顕微手法においては、照明、観察対象、検出を工夫することにより、理論的な分解能の限界を超える微細構造をとらえられるようにできます。照明の工夫では、後述するように、縞照明と画像再構成により超解像を可能とする方法があります。観察対象の工夫では、蛍光観察において近傍の蛍光を時間的にずらして励起することにより、近接した蛍光を分離して検出することを可能にする方法があります。検出での工夫では、点像の広がりより小さい検出器をもちいて各点を分離する方法があります。
画像クリックで拡大
蛍光染色した観察対象に励起光を当てて蛍光を観察する顕微鏡において、蛍光分子ひとつづつを励起し近傍の蛍光分子からの信号を時間差で区別して計測することにより分解能を上げるSTORM(Stochastic Optical Reconstruction Microscopy)やパターン上の照明で観察対象を照射しモアレ効果によって観察対象の微細構造の情報を取得する構造化照明顕微鏡(Structured Illumination Microscopy: SIM)などがあります。
共焦点蛍光顕微もふくめ、これらの顕微手法は細胞の動きが追える高速性や蛍光褪色、厚みのある試料でのノイズへも同時に対応することが求められます。
技術の適用事例
構造化照明顕微鏡
2000年に米国のDr. Mats G.L.Gustafssonらが発表した「構造化照明顕微鏡法(Structured Illumination Microscopy = SIM)」と、ニコン独自の光学技術を組み合わせ、従来の光学顕微鏡の約2倍にあたる高解像度イメージングを実現したのが超解像顕微鏡「N-SIM」シリーズです。
観察対象が理論的な分解能より微細であっても解像度以下の観察対象にパターン状の照明(構造化照明)をあてた際に発生するモアレは、その特性上、元のパターンより粗くなるため、光学顕微鏡で撮影することができます。N-SIMは、構造化照明の向きや位相を少しずつ変化させて撮影し、取得した複数の画像を演算処理することで、観察対象の詳細な構造を復元。顕微鏡の構造を大きく変えずに照明を工夫し、従来の光学顕微鏡の約2倍の高解像度を実現しています。
さらにニコンでは、画期的な高速構造化照明システムを開発。超解像顕微鏡「N-SIM S」では、高速な画像取得を実現しています。
この事例に関連する技術
関連技術
顕微手法
顕微手法は小さなものを見えるようにする技術であり、細胞などの生物の観察だけでなく、鉱物の観察や電子部品などの測定といった工業用途においても用いられています。観察画像をデータとして取り込み解析することにより、観察だけでなく測定にも用いられています。
生物用途では、学問的な発見だけでなく、医療現場での診断や創薬などのバイオ産業での測定・検査などにも利用されています。
ニコンでは、顕微技術により細胞などの生物観察や半導体ウエハや電子部品、材料の検査などの様々な用途に対応しています。研究から臨床に用いられることが多い生物観察では、より大きな生きた細胞をリアルタイムに定量的に観察したいという要求があり、高速で高解像な観察手法が必要となります。各点を高速に走査しつつ、ノイズに対して必要な信号が十分得られるようにすることが重要となります。
画像クリックで拡大
関連する主な製品
ニコンの技術、研究開発に関する記事をタグ検索できます。