走査光学系

技術概要

光を照射する領域を走査する技術です。レーザー光の多様化や高性能化とともにその用途は広がっており、走査により点から線、面、立体へと光を照射する領域の次元を上げることができます。計測系のように対象物に光を照射しその応答から対象物の情報を得るような場合、照射する領域の情報をほかの領域の情報と区別して取得することができるので、情報の空間分解能を上げることができます。また光を用いた加工に走査光学系を用いる場合は、光のパワーや対象物の形状に合わせて走査速度などを調整することにより、最終的に所望の形状の加工をすることが可能になります。

一般にレーザー光をミラーに照射し、そのミラーの角度を振ることにより、光を走査させることができます。実際にはレーザー光は次第に広がってしまうので、計測や加工において高い空間分解能が求められる場合はいったん平行光にした光をレンズにより対象物上に集光させます。走査はこのレンズにいれる平行光の向きをミラーによって変えることにより、対象物上で集光点を移動させることができます。1枚のミラーを機械的に駆動する走査だけでなく、デジタルミラーデバイス(DMD)による機械的な駆動による走査や電気的光学効果や音響光学効果を利用した素子による走査などがあります。走査範囲や速さ、制御などに応じて適した方法を選択します。

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ガルバノミラーによる走査光学系イメージ

ニコンでは対象物に光を照射して、反射光や散乱光などを検出することによって対象物の情報を得る検査や計測、対象物を照射光のエネルギーで加工することなどに使います。
例えば、共焦点蛍光顕微鏡では、観察する対象物の一点一点を照射して蛍光を検出していきます。細胞の微細な構造を観察するために一点に集光できること、細胞の動きを正確にとらえるために観察点ごとのタイムラグは無いことが要求されます。
このように光源の条件、走査範囲・速度、分解能、装置の大きさなど求められる仕様に合わせこみつつ、熱や振動などの影響に対応できるような光学系が必要となってきます。

技術の適用事例

眼底撮影装置

ニコングループのOptos社製の超広角走査型レーザー検眼鏡は、網膜の約80%(画角200度)の領域のデジタル画像をわずか0.4秒で取得し、網膜画像で診断できる多くの疾病の発見に貢献する眼底撮影装置です。網膜剥離などの眼病はもちろん、糖尿病網膜症による糖尿病など全身疾患の診察等にも利用され、眼科の医療機関等で活躍しています。一般的な眼底撮影装置で必要となる瞳孔を開く薬剤の点眼が不要で検査後すぐに日常生活に戻ることができ、検査時間を大幅に短縮できるなど、患者様にとってさまざまなメリットを提供します。
Optos社製の超広角走査型レーザー検眼鏡の技術的ポイントは、凹状の三次元形状を備えた楕円鏡と網膜をスキャンするレーザーを組み合わせた独自の走査光学系にあります。レーザーは楕円鏡に反射し、患者様の瞳孔を通して網膜をスキャンします。往復瑶動で高速スキャン可能なガルバノミラーと呼ばれる鏡で入射角度を変えながらレーザー光を照射し、きわめて広い画角の高精細画像を高速で取得することができます。

眼底撮影装置
画角の比較
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楕円鏡を利用した光学系

関連技術

光変調

光は波の性質を持っており、波の振幅や位相そして偏光状態を変えることにより、自在に光を操ることができます。例えば、空間的に位相を変調しほかの光と干渉させることにより、所望の光強度分布を得ることや、特定の偏光面しか通さない光学素子を用いて光強度を調整することができます。
通信分野では変調部分に情報を乗せてその情報を伝達するために光変調を用いますが、ニコンの製品では所望の光を得るために光変調を用います。変調のさせ方は、光のどのような特性を変えたいかにより様々な方式があります。例えば音響光学素子では、特定の結晶材料などに超音波を与え規則的な屈折率分布を発生させ光を回折させることができます。超音波の周波数などの変更により屈折率分布の規則性を変え、回折の仕方を制御することができます。

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音響光学素子(AOM):電気信号の周波数変調によって、回折光の出射角度を変化させる

ニコンでは光変調の中でも光の進む方向を変える偏向が必要となることが多いです。たとえば走査型生物顕微鏡ではサンプル全体を光で走査するために必要であり、細胞の形態変化をタイムラグなく観察するために速く走査することが求められます。光加工やレーザーレーダーでは、工業用途に用いられるので、速さとともに正確性も要求されます。偏向以外の光変調では、半導体露光装置の照明光学系において光の位相分布を変調させて所望の照度分布が得られるようにします。

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