収差補正
技術概要
光学系において所望の像が得られるように補正する技術です。一点から出た光を一点に集光させることを目的とした結像光学系において、レンズ形状や異なる光学特性をもつ材料の組み合わせ、レンズの配置を工夫することによって、理想からのズレを少なくするようにしています。
理想的な結像からのずれを収差といい、理想からのずれ方によって分類されます。単色(単一波長)の光でも生じる収差を単色収差とよび、主にレンズの形状に起因するため、レンズの曲率や厚み、レンズ間の間隔などを調整し、所望の仕様になるように設計します。色(光の波長)によって異なる収差(色収差)はおもにレンズの材料に起因するため、ある材料で発生する色収差を相殺するような材料と組み合わせることにより、補正します。
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ニコンが扱う光学系は多岐にわたり、その用途に応じて要求される収差補正のレベルや種類が異なります。例えば、主に可視光を扱うカメラレンズや双眼鏡では色収差の補正が重要になります。物理的な限界の精度を求められる半導体露光装置に搭載される投影レンズでは回折限界に近いレベルの補正が求められます。要求される光学性能を満たすだけでなく、重量や大きさ、光学系の可動域などの使いやすさ、作りやすさなどの制約条件の中での補正が必要となります。
技術の適用事例
双眼鏡
優れた見え味で高い評価を得ているニコンの双眼鏡。優れたレンズ設計による収差補正で視野周辺までシャープな像を得られる「フィールドフラットナーレンズシステム」があります。
コマ収差および非点収差を十分に補正すると、光軸外の点から出た光線は一点に結像しますが、光軸上の結像点に垂直な面上に結像するとは限りません。これを像面湾曲と言います。像面湾曲があると視野中心でピントを合わせても周辺ではピントが合っていないという現象が生じるため、広視界タイプの双眼鏡には極めて大きな弊害となります。
この像面湾曲を光学系全体で適正化するのがフィールドフラットナーレンズシステムです。高度なレンズ設計により、非点収差やコマ収差も同時に補正し、視野の隅々までシャープかつクリアーな観察を実現しています。
この事例に関連する技術
関連技術
レンズ設計
光学機器において光をうまく操るために重要な光学素子の一つがレンズです。レンズは光を収束・発散させるので、カメラのレンズのように物体の像を作る光学系に使用されます。眼鏡のようにレンズ一枚のみの場合もあれば、何十枚ものレンズを組み合わせた光学系もあります。このレンズの配置、材料、形状を所望の光学性能が得られるように決定します。光学性能に影響する収差を減らすことや製品として要求される重量や大きさ、コストを満たすことが必要となります。
ニコンでは顕微鏡の対物レンズ、カメラの交換レンズ、露光装置の投影レンズなど大きさや求められる精度などが異なる幅広いタイプのレンズ設計を行っています。
例えば、半導体素子の微細化への対応が求められる投影レンズでは、理論分解能に近い光学性能が出せるような設計が求められます。カメラの交換レンズでは、ズーム機能を備えつつ小型軽量などの制約条件の中でユーザが求める描像が得られる設計が必要です。
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