波面収差計測

技術概要

波面収差計測は、カメラのレンズや半導体露光装置の投影レンズのような結像する光学系の性能を定量的に評価するための計測方法の一つです。ほかの収差計測と比べ複数種類の収差成分を一度に評価することができ、光学系を調整する際や光学性能の保証するために用いられます。

波面は光を波動として扱ったときの等位相面です。理想的な結像光学系では、一点で発光した光は発散球面波で伝播し、結像光学系にて収束球面波に変換され一点に集光します。実際の結像光学系では収束球面波には変換しきれず、結像する波面は球面からわずかにゆがみます。この理想球面からのずれを波面収差と呼びます。
波面収差を計測する代表的な方法として、結像する光と基準とする光の干渉縞を測定することにより、二つの光の位相差を計測する方法があります。これ以外にも、シャックハルトマン波面センサーを用いる方法もあります。

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波面収差の説明図

露光装置の投影レンズでは、光学性能を極限まで高めるために、巨大な光学系の波面収差を高精度に計測することが要求されます。レンズの組立調整の工程での計測や装置内の環境変化によって生じる収差補正のための計測など、測定する状況や測定精度に応じた様々な計測手法を有しています。カメラの交換レンズでは、広角や望遠レンズの焦点距離が異なるさまざまなレンズタイプへの対応、対物レンズでは、広い波長帯域への対応が必要となります。カメラの交換レンズでは、残存させる収差の特徴がそのレンズの"味"となるので、多種多様なレンズの収差を研究しターゲットとするユーザが好む写真が撮れる収差となるよう設計します。

技術の適用事例

半導体露光装置

半導体の電子回路のパターンは大きなガラス板(フォトマスク)に描かれ、レンズによってシリコン板(シリコンウェハ)に縮小投影して焼き付けられます。この工程を担うのが「半導体露光装置」です。そのレンズには微細なパターンを正確に焼き付けるため、収差を極限まで抑えた高い解像度が不可欠です。高精度なレンズを高精度に設置することで、高い解像度を実現している半導体露光装置。それでも、装置が稼働するとレンズに収差が発生してしまいます。稼働中に発生する収差のパターンは非常に複雑で、稼働状況やその日の気圧によっても刻々と変化します。ニコンでは、この収差を計測し、レーザー光を反射するミラーを複数のアクチュエーターで随時押し引きして微妙に変形させたり、レンズの傾きなどを制御したりすることで、収差を適宜補正しています。

半導体露光装置

関連技術

結像性能計測

結像性能の指標は収差だけはなく、点像の強度分布や結像系の空間周波数応答(MTF:Modulation Transfer Function)などがあり、これらを測定することによって結像光学系の性能を定量的に評価することができます。点像強度分布は実際の結像を直接的に評価できること、MTF測定は像のコントラストを評価できることが利点になります。

ニコンで扱う結像光学系は投影レンズからカメラの交換レンズや対物レンズなど、要求される結像性能、光学系の大きさ、扱う波長帯域や生産数などまちまちです。また、生産工程における調整、装置内での補正など目的に応じて、計測速度、簡便性などといった計測の制約条件も変わってきます。目的や計測する対象に応じて、適切な計測方法を用います。

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各空間周波数における出力信号(コントラスト)の低下とMTF

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