位相フレネルレンズ用樹脂

技術概要

PF(位相フレネル)レンズは、光の回折現象を利用しています。屈折現象を利用した一般のレンズと異なり、レンズに近い方から赤・緑・青の順で結像します。PFレンズは、PF素子を従来の屈折レンズと組み合わせることにより、色ズレを相殺することが可能となり、強力な色収差の補正を実現することができます。また、PFレンズは光学系の軽量、小型化が実現できます。PF素子に樹脂を適用することで、屈折率の波長分散を特異的にコントロールすることができ、効率的な色収差補正が可能となります。樹脂材料の特性上、格子形状の転写性も非常に良く高い生産性が可能です。

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位相フレネルレンズの色収差補正

位相フレネルレンズでは回折格子を刻む必要があります。樹脂の場合、回折格子形状を金型から転写させて作成します。金型の形状を正確に転写する密着性と微細な回折格子形状を保ったまま金型から離せる離形性が求められ、必要な光学特性を持ちつつ界面特性や粘度などを満たす樹脂の組成開発、作製技術が必要となります。

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位相フレネルレンズの作製例(密着複層型)
密着複層型位相フレネルレンズ

カメラ交換レンズなどに用いられる位相フレネルレンズでは、広い波長帯域での光学性能および回折格子起因のフレア低減、製造しやすさやロバスト性が求められます。ニコンではこれらの要求を満たせるよう、高い屈折率と低い屈折率の樹脂材料を貼り合わせる密着複層型を採用し、適切な樹脂材料の組成・製造プロセスを開発します。ガラスと比べて樹脂は耐候性が悪いため、光学性能を維持するために二層樹脂の安定性も求められます。

技術の適用事例

望遠カメラレンズ

望遠レンズの全長を短縮させるためには、テレ比(全長/焦点距離)を小さくする必要があります。一般的なカメラ用レンズ(屈折レンズ)のみの構成でテレ比を小さくすると、レンズ前方の凸群で発生する色収差を後方の凹群で拡大してしまうため、全長の短縮には限界がありました。位相フレネルレンズは、一般的なカメラ用レンズとは逆の方向に強力な色収差を発生させることで効率的な色消しが可能となり、全長を短縮しても優れた色収差補正を達成。光学系の全長短縮が鏡筒の短縮を実現し、望遠レンズの軽量・小型化ができるようになりました。

望遠カメラレンズ

関連技術

光学樹脂

樹脂はガラスに比べると、耐久性や光透過率など劣るものの、軽量あり、安価に大量生産することができます。高分子化合物の一種であり、これらの化合物の組成や添加物、重合のさせ方によって、様々な要求仕様に合わせた材料を作製することが可能になります。

ニコンでは軽量で大量生産が必要となる、カメラなどの民生品において、光学樹脂を効果的に適用しています。
ガラスと同様に光学設計から求められる光学特性を満たしかつ耐候性を有する組成開発、および大量に効率的に生産できる製造プロセスが重要となります。樹脂はガラスと比べ熱膨張率が大きいため、光学特性への影響が少なくなるように工夫する必要があります。要求される光学特性を満たす樹脂が存在しない場合は原料から材料開発が必要となり、化学合成に関する研究や成形プロセスの開発、成形されたレンズの評価を行います。

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光学樹脂の開発

関連する主な製品

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