蛍石
技術概要
人工合成した蛍石は、紫外線から赤外線までの広い波長帯域で光透過率が高いことや屈折率変化が小さい特徴をもっており、様々な光学系に用いることができます。また特定の波長領域にて屈折率の波長依存性が一般的な光学ガラスと異なるため、これらを組み合わせることにより、色収差を補正することができます。同等の光学特性を有する光学ガラスと比べ比重は小さく、たとえば望遠レンズなどの大きなレンズの軽量化という点で利点となります。
蛍石はフッ化カルシウム(CaF2)であり、高品質な単結晶は優れた光学特性を有するものの、傷つきやすい、急な温度変化に弱いなど、光学部品に加工する上での課題もあります。製造過程では通常の光学ガラスより高い温度で溶かし、長い時間かけて結晶を育成する必要があります。不純物の低減、均質で大きな結晶を育成するための条件最適化といった製造技術が重要です。
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半導体露光装置で用いられる光学部品は、高品質な光学特性とともに高出力の紫外レーザーに耐えうる必要があります。大口径でありながら、屈折率均質性とともに、不純物濃度を極限まで低減させる必要があります。カメラの交換レンズでは、民生製品に見合う生産性の高い製造プロセスが求められます。このように、色収差補正性能に優れた蛍石は様々な製品の光学系に使用されています。
技術の適用事例
望遠カメラレンズ
NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR Sはテレコンバーターを内蔵した超望遠レンズでありながら、軽量化を追求した光学タイプに光学ガラスよりも軽い蛍石を使用し、主要なメカ部品に比重の軽いマグネシウム合金とプラスチックモールドを採用することで、約2950gの軽量ボディーを実現。また、プロフェッショナルユーザーの持ち運びを考慮した小型ボディーは、航空機内に持ち込めるサイズの市販のバッグに収納でき、手許に置いて安心して持ち運べます。
望遠系のカメラのレンズのように焦点距離が長くなるほど色収差補正がむずかしく、蛍石レンズを使うことにより少ないレンズ枚数で効果的に色収差を補正します。また、光学ガラスに比べて軽いため、レンズの軽量化にも貢献しています。
この事例に関連する技術
関連技術
結晶・多結晶
原子や分子などが規則正しく配列している高品質な単結晶は、同じ組成のガラスと比べ欠陥が少ないため高い光透過率が得られます。一方で単結晶は異方性による光学的、機械的な特徴があり、用途によっては扱いづらい場合があります。多結晶は、微結晶を焼結させることにより結晶の優れた光学特性を有しつつ、異方性による扱いづらさを回避でき、様々な用途にもちいることが可能です。製造においても、結晶のように高温で長時間育成する必要がなく、エネルギー的にも省力化が期待できます。
深紫外線の固体レーザーで波長変換に用いられる非線形光学結晶では、高出力のレーザー照射に長時間耐えるために欠陥の少ない高品質な結晶が求められます。波長変換用途にかぎらず、露光装置などの光学系で用いる結晶にもレーザー耐性は求められます。蛍石の多結晶では、蛍石単結晶の光学特性・低比重を有しつつ、幅広い用途へ展開が期待されます。
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