シナジーで進化するものづくり
技術の集約と横展開で生まれる高品質な光学部品
カメラを始め、さまざまな光学製品の要と言える光学部品。
その生産を一手に担っているのが栃木ニコンです。
複数のものづくり拠点に分散していた光学部品の生産を集約し、
先進的なものづくりで新たな付加価値を生みだしています。
光学部品の生産を一手に担う栃木ニコン
プロからアマチュアまで、表現の可能性を多彩に拓くNIKKORレンズ。その製造を始め、光学部品のものづくり拠点となっているのが、栃木ニコンです。
2017年2月1日からは、ニコングループ各社で独自に進化してきた光学部品(レンズやプリズム、ミラーなど)の生産技術の強化を図るため、光学部品の生産機能を栃木ニコンに集約。現在は、カメラだけでなく、露光装置や顕微鏡、産業機器など、多種多様な光学部品の製造を一手に担っています。さらに、そうした多様な光学部品のものづくりの共通化や自動化などの生産技術開発も担当。生産拠点と生産技術センターの二つの役割を果たしています。
しかし、大きさだけ見ても、直径2~3mmの顕微鏡用対物レンズから、直径300mmを越える特殊用途の光学部品まで、つくるものは多種多様。そこで、栃木ニコンでは、柔軟な生産体制と最新鋭の生産工程を整備するとともに、生産技術を横展開することでシナジー効果の創出を図っています。
組織に横串を通し、生産技術を展開
生産技術の横展開については、すでにいくつかの事例があります。
その一つが、蛍石レンズの加工技術です。蛍石は優れた光学特性を持つ反面、結晶材料特有の、加工が難しい材料です。ニコンではこの蛍石の製造から加工までをニコングループで行い、半導体露光装置用の高精度レンズとして使用してきました。カメラ用交換レンズのNIKKORレンズにも使用することになった際に、露光装置用蛍石レンズの加工技術を移植。しかし、露光装置用レンズの高精度な加工方法では、NIKKORレンズのコストを満たすことができませんでした。そこで露光装置用レンズの加工方法をベースに、NIKKORレンズ用加工技術としてコスト面の改善が進められました。今では、NIKKORレンズ用の加工技術を露光装置用蛍石レンズの加工に逆輸入して、低コスト化を実現しています。
この他にも、露光装置用非球面レンズの加工技術をNIKKORレンズ用非球面レンズに展開し、高精度な非球面レンズを使用できるようにしました。また、NIKKORレンズのものづくり、加工技術、IE(生産工学)を含む生産技術を、顕微鏡用対物レンズのものづくりに展開することによって生産性の向上を進めています。
それぞれ特徴のあるものづくりの中でベースを揃えながら「いいところ取り」を進め、生産性や精度の向上を図っています。
また、光学集約以前にも技術者同士の交流はありましたが、光学部品の製造部門が一つの会社になったことで、連携がさらに深まりました。これによるシナジー効果で、ニコンのものづくりに新たな付加価値を生みだしていきます。
職人技の技術化・自動化に挑戦
栃木ニコンでは、職人技(技能)の技術化や各生産プロセスの自動化にも取り組んでいます。例えばコーティング工程では、前処理や検査などの工程を除き自動化されています。また、レンズの調整工程でも自動化を進めています。
半導体露光装置用レンズの面精度は、誤差わずか1nm。仮にレンズの直径が地球大まで拡大したとすると、地面にわずか1cmの凹凸しか許されない精密さです。これ程の精度で加工する技術を有しているにも関わらず、レンズの製造工程にはまだ研磨や調整など、作業者の技能頼りのものづくりも残っています。例えば、顕微鏡用対物レンズの半球を超えるレンズの仕上げ研磨は、手磨きで行われています。今後は、まだ技能に頼っている作業の技術化を進めるとともに、工程の自動化にチャレンジを進めていきます。
また、部品の寸法誤差やレンズ1枚ごとの面精度など、レンズ加工の工程ごとにデジタル化された計測データを収集。デジタルマニュファクチャリングを推進し、設計へのフィードバックや生産計画の最適化を通じて、ものづくり基盤の強化を図っていきます。
世界同一品質をサポート
さらに、光学モジュールや光学部品をニコン以外のお客さまに外販するコンポーネント事業を、ものづくりの面から支えています。お客さまの高度な要求に応えるためには、最適な生産技術を組み合わせることが必要になります。光学集約によって技術がスムーズに横展開できるようになったことが、ここでも役立ちます。
また、海外にも展開するニコンのものづくりは、世界中どこでつくっても「Made by Nikon」の世界同一品質である必要があります。栃木ニコンは、ニコングループのエンジニアリングセンターとして、海外のものづくり拠点をサポート。ニコン流のものづくりと「ニコン品質」のグローバル化にも貢献していきます。
ニコン流ものづくりの完成を目指して
株式会社栃木ニコン
中村 浩
レンズなどの光学部品は、ニコンの要の一つです。2017年にその製造を栃木ニコンに集約しました。事業部ごとに縦軸の強いものづくりが行われていたため、当初は横串を通すのに苦労しましたが、現在は成果が出始めています。
もともとは薄膜技術者でしたが、今では形のあるものをつくることが、一番面白いと感じています。ニコン流のものづくりを目指す取り組みは始まったばかりです。そのスタートに栃木ニコンの社長として立ち会えたことは喜びであり、ぜひ完成させたいと考えています。
株式会社栃木ニコン
津田 剛志
ニコンの研磨技術は、長い歴史を持つコア技術です。これまで職人技とも言える技能で行っていた工程の技術化には、大きな壁があります。しかし、それを乗り越えたとき、技能者と技術者が一つになれると思っています。現場で技能者と膝をつき合わせながら課題を解決し、将来をつくりあげてくことにやりがいを感じています。
ニコンのものづくりの特徴は、設計の想いをものづくり部隊が実現しているところだと思います。逆に、一つの生産技術が設計の方向を変えることもあります。これからは私たち栃木ニコンの技術力を示し、私たちがニコングループのものづくりを主導し、海外も含めて生産技術を展開していきたいと考えています。
株式会社栃木ニコン
塩釜 吉晴
NIKKORレンズの製造を統括しています。Zマウントレンズに代表されるように、NIKKORレンズは日々進化しています。蛍石やフッ素コートなど、新たに開発される要素技術への対応が必要になるため、栃木ニコンだけでなく、ニコン全体の関連部門との連携など、生産技術開発の管理も高度化するため苦労しています。
また、私たちは従来からニコン映像事業部のエンジニアリングセンターとしての役割も担ってきました。今後は、このエンジニアリングセンターとしての機能をさらに強化し、海外も含めてニコングループの全ものづくり拠点の技術力を高める核になりたいと考えています。
株式会社栃木ニコン
大村 幸司
露光装置の光学部品の製造を統括しています。超高解像度を実現するための、非常に高精度なものづくりを特徴としています。光学集約によりすべての部門が1か所に集結したことで、物理的な意味合いも含めて、部内の距離感が近くなり、知見や技術の共有やコミュニケーション面で良い効果が生まれています。
まずは増産に対応できるよう生産能力を高め、さらには難易度が高い部品の生産確立を急ぎます。その上で、コンポーネント事業室が進めている外販ビジネスの多様化する要求に、的確に応えていくことがこれからの課題だと考えています。
株式会社栃木ニコン
大畠 誠
ヘルスケア事業部と産業機器事業部の顕微鏡対物レンズや光学部品づくりを統括しています。対物レンズは種類が非常に多く、多品種少量のものづくりが特徴です。栃木ニコンでは、さまざまに特徴的なものづくりが行われていますので、技術の横展開は容易ではありませんが、取り組みを進めることでQCD(品質・コスト・納期)が改善されていくはずです。
また、外販においても高精度な要求が増えています。生産能力も含めて自らの力を高め、そうした需要にフレキシブルにお応えし、新規ビジネスの伸びに対応していきたいと考えています。
- ※所属、仕事内容は取材当時のものです。
公開日:2019年10月17日