トップメッセージ

サステナブルな未来へ向けて

ニコンのサステナビリティ

私たちニコングループは、企業理念である「信頼と創造」を事業活動の中で具現化することで、持続可能な社会への貢献と自社の持続的成長をめざしています。この方針に沿い、現行の中期経営計画(2022〜2025年度)で掲げた2030年のありたい姿「人と機械が共創する社会の中心企業」を実現する経営基盤のひとつにサステナビリティ戦略を位置付け、サステナビリティと事業を一体のものとして進めています。
世界では、痛ましい紛争が続いており、また、大きな被害をもたらす自然災害が頻発しています。持続可能な未来をめざす一人として、一刻も早い平和的解決と復興を心より願うとともに、グローバル企業として、私たちの技術やブランド、ネットワークなど、あらゆる力を結集し、人々がより豊かで幸せに暮らせる健全な環境と社会の実現に貢献していきます。

事業で人をより豊かで幸せに

ニコンは創立から100年以上の歴史の中で、光利用技術と精密技術を核として、人が機械を用いて新しい世界を開拓すること、新たな体験や可能性を実現することで、社会に貢献してきました。例えば、顕微鏡は医療や生命科学など、さまざまな分野における研究の進展に、カメラは表現の広がりや心の豊かさに貢献しています。また、半導体やFPDの製造に不可欠な露光装置は、便利で快適なIT社会の発展を支えています。
社会はいま、インダストリー5.0という新しいステージへの転換期を迎えています。それはまさに人と機械が共創する社会と言えます。私たちは、これまで培った技術や知見を活かして、この転換期に重要な役割を果たすことで、社会をよりサステナブルに、人をより豊かで幸せにしていく決意を持っています。中期経営計画では、この決意のもと、完成品販売中心のビジネスから進化し、完成品・サービス・コンポーネント一体となったソリューションの提供を強化します。そのうえで、人間の可能性を拡げる「インダストリー」と、人生を豊かにする「クオリティオブライフ(QOL)」の2つの価値提供領域において事業を展開し、「安全・労働環境」「脱炭素」「資源循環」「健康」「心の豊かさ」の領域に貢献することを掲げています。

ものづくりの世界に革新を

これら5つの領域における価値創造を拡大するため、さまざまな取り組みを進めています。そのひとつとして、戦略事業に位置付けているデジタルマニファクチャリング事業においては、世界有数の金属アディティブマニュファクチャリングの専業会社であるドイツSLM Solutions Group AG(SLM)を買収し、2023年9月に完全子会社化を完了。これに先立ち、同年4月には、精密な金属加工のニーズが大きく成長性が高い宇宙航空産業やハイテク企業が集積している米国西海岸に、アディティブマニュファクチャリング事業の統括会社であるNikon Advanced Manufacturing, Inc.を設立。ニコンとして、日本国外に事業部本社を設置するのは創業以来初めてです。今回子会社化したSLM、米国の宇宙航空部品向け用途開発を行うMorf3D、そして、ニコンの技術や知見を組み合わせることで、ものづくりの世界に革新をもたらします。

人が育つ会社に

事業や会社の仕組みを大きく変化させる中で、私が特に重要と感じているのは人材です。そこで、私自身がトップとなるHRチームを結成し、どのような人材が必要なのか、事業ごとに求める資質やスキル、その獲得、育成、活躍のための施策について、定期的に検討を続けています。
お客様のビジネスの成功を考えて社内外のリソースを連携させ、最適なソリューションを提案するためには、知識・スキルはもとより、主体性のある人材の集団となることが不可欠です。ニコンは、会社のめざす方向性や組織の目標を明確に示し、これらに連動した人材戦略を実行することで、多様な従業員がその能力を最大限に発揮できる機会を提供します。同時に、従業員には、その機会を逃すことなく、主体的・継続的にスキルを磨き続ける姿勢を求めます。会社としては、成長に向け努力する一人ひとりを支援し、その成果や貢献に対し、公正かつ公平に報いていきます。従業員が自らとニコンの成長を同時に実感できる組織体をめざしたいと考えています。

さらなる成長をめざして

ニコンでは、取締役会の構成の最適化に向けた議論を重ねており、2023年6月より女性取締役が2名に、社外取締役は半数になりました。2024年6月からは、議長が社外取締役になるとともに、社外取締役が過半数となり、より一層、独立性が担保された構成となりました。
さらに経営体制としては、2024年4月から新たに、德成旨亮が社長執行役員COOに就任し、私が会長執行役員CEOとなりました。私が経営方針を決定し、中期経営計画で掲げた2030年のありたい姿の実現に向けて着実な歩みを進めるとともに、德成には、M&Aや設備投資などの成長戦略の遂行とともに、収益管理やリスク管理など、事業運営上の仕組みや基盤の強化などを主導してもらいます。異なるバックグラウンドを持つ2人が両輪となり、ニコンのさらなる成長と社会への貢献をめざします。
ステークホルダーの皆様には、ニコングループにご期待いただくとともに、一層のご支援をお願いいたします。

2024年7月
代表取締役 兼 会長執行役員CEO
馬立 稔和

社会とともに成長する企業に

サステナビリティ戦略

ニコンは、2030年のありたい姿「人と機械が共創する社会の中心企業」を実現し、さらなる企業価値の向上をめざしています。そのためには、確固たる経営基盤の構築が必要であり、それが、新たに社長執行役員COOに就任した私の使命と考えています。
中期経営計画(2022〜2025年度)では、経営基盤のひとつにサステナビリティ戦略を位置付けています。具体的には、4分野12のマテリアリティ(重点課題)について、企業理念の「信頼と創造」に基づき、社会の期待に「信頼」で応えることと、「創造」を通じて社会に貢献することの2つの視点で取り組みを進めています。
サステナビリティへの取り組みは、一定の時間軸の中で財務的価値を含む企業価値の向上につながると考えています。こうした背景から、私は、社長およびサステナビリティ戦略部担当役員として、サステナビリティを今後も強く推進していきます。

「創造」による貢献

ニコンは「創造」による貢献領域として、「安全・労働環境」「脱炭素」「資源循環」「健康」「心の豊かさ」を掲げていますが、2023年度も着実な進捗がありました。
健康の領域では、R&Dの拠点となる「ニコン ヘルスケア R&Dセンター(湘南)」と、「Nikon BioImaging Lab R&D Center Lexington」を日米それぞれに新設し、創薬支援の研究開発体制を強化しました。また、生命科学・医学研究のデジタルトランスフォーメーション実現に向け、ニコンとグループ会社のニコンソリューションズは、最先端の研究を進める大学、病院、企業と連携協定を締結しました。
心の豊かさの領域では、映画やCM撮影などに使用される業務用シネマカメラを手掛けるRED.com, LLCの子会社化を進めました。今後拡大が見込まれる業務用動画機市場を開拓し、動画領域においても映像文化の発展に貢献していくことをめざします。
その他、安全・労働環境の領域では、多様な検査・測定が非破壊で可能なX線/CT装置や、人と協働するロボット向けモジュールにおいて、新製品を投入し、最先端のものづくりを後押し。脱炭素の領域では、サメの肌を模した人工的な微細構造で、物体表面の摩擦抵抗を減らすリブレット加工について、昨年の旅客機に続き、風力発電と船舶での実証実験を実施するとともに、資源循環の領域では、露光装置をはじめ、製品のリファービッシュを進めています。
また、2023年11月に、SBIインベストメントと共同でコーポレートベンチャーキャピタルファンド「Nikon-SBI Innovation Fund Ⅱ」を立ち上げました。これは、中期経営計画の先を見据えた新たな分野として航空宇宙、エネルギー、カーボンニュートラルなどの最新技術・サービスに投資するためです。ベンチャー企業が有する最先端技術やビジネスモデルなどを取り入れるとともに、新規事業創出と育成の推進、事業シナジーの実現をめざしていきます。
今後も、持続可能な社会に貢献する事業を積極的に生み出し、育てていきます。

「信頼」で応える

「信頼」への取り組みでは、脱炭素化の活動が大きく進展しました。これまで当社は、2050年度までに事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目標としていましたが、これを20年前倒しし、2030年度までの達成をめざすこととしました。さらに、2050年度までにカーボンニュートラルを達成することをめざしてきましたが、改めてScience Based Targets(SBT)イニシアチブが定める要件に沿ってバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量を実質ゼロにする*という目標を定めました。この目標は、SBTイニシアチブからパリ協定が求める「1.5℃目標」の水準と整合したネットゼロ目標と認定されました。
また、社会的責任に対する会社の姿勢と従業員のとるべき行動の規準を示した「ニコン行動規範」を全面的に見直し、2024年4月に改定しました。この改定にあたっては、人権・環境などの社会課題に対する企業への期待、法規制の最新動向、事業環境の変化などに対応できる規範となるよう議論を重ねました。2024年度は、従業員一人ひとりが新しい行動規範を理解し、誠実に行動するよう、グローバルで教育を徹底していきます。
このほか、人権デュー・ディリジェンスの見直しや製品ライフサイクルを通じた資源循環の一層の推進、サプライチェーンにおけるアセスメントや改善活動など、マテリアリティに沿った取り組みを着実に進めています。そして、非財務情報開示の法制化や義務化の流れに対し、これらの取り組み結果を基に適時・適切な開示を実行できるよう準備していきます。

  • *バリューチェーン全体における温室効果ガス排出量(スコープ1、2、3)を90%削減し、残余排出量はSBTイニシアチブが定める基準に従って中和すること。

個人の力が組織の強さになる会社へ

私は、社長執行役員COO 兼 CFOとして、グローバルガバナンスの強化や生産拠点の整備、DXを推進するとともに、事業運営面においては、バランスシートやキャッシュフローを重視し、資本を最適な形で配分する事業ポートフォリオ運営の高度化に取り組みます。そうした取り組みの要となる人的資本については、従業員とのエンゲージメントの必要性・重要性を強く感じています。エンゲージメントは、対等に向き合い、互いに成長し、貢献し合う関係です。私はニコンを従業員一人ひとりが自らの成長と企業の成長を同時に実感できるような会社、従業員が自らの能力を存分に発揮できる組織体にしたいと考えています。その実現の鍵となるのがDiversity, Equity & Inclusion(DEI)です。
ニコンでは、2023年4月にNikon Global Diversity, Equity & Inclusion Policyを策定しました。本方針においては、「共に働くメンバーの個性や能力を認め合い、活かし合うことのできる職場環境や企業文化を醸成していくこと」を掲げています。ニコンにはさまざまな属性・経験・専門性を持った人材が集っています。その多様な従業員一人ひとりが、自由に意見を述べ合える環境がニコンに組織としての強さをもたらし、イノベーションを生む。それが「人と機械が共創する社会の中心企業」というありたい姿の実現につながると信じています。

2024年7月
代表取締役 兼 社長執行役員COO 兼 CFO
德成 旨亮