新たな気づきを生み出す
教育現場で活躍する可搬型ボリュメトリックビデオの可能性
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「新しい視点で様々な動きを確認できた。この技術はスポーツだけではなく数学にも活用できると思います」と、渋谷区立原宿外苑中学校(以下原宿外苑中学校)3年生の目黒龍一郎さんは語りました。
生徒が主体的に課題を見つけ、教科を超えて学んだ知見を発展させ、その課題を解決するための方法を考える探究学習。ニコンが開発した可搬型ボリュメトリックビデオシステム(可搬型VVシステム)で撮影した映像が、原宿外苑中学校の探究学習で活用されました。
ボリュメトリックビデオ(Volumetric Video)とは、被写体の形状の位置のみならず、時間と共に変化する動きも含めた3D情報を記録する技術。様々な会社がボリュメトリックビデオの技術を進化させているなか、ニコンでは、教室でも体育館でも、どこでも簡単に撮影できる可搬型VVシステムを開発し、サービスの提供を開始しました。
今回、原宿外苑中学校では、保健体育の授業におけるバレーボールのサーブ、レシーブ、アタックといった様々な動作の技能向上について各自が課題を設定、その課題を解決する探究学習のなかで、ボリュメトリックビデオが取り入れられました。
「今回、保健体育の探究学習の課題解決にボリュメトリックビデオを活用しました。ボリュメトリックビデオを知ったとき、とにかくこれは使える!と思ったのと同時に、3年生が取り組んでいた探究学習に活かせると思いました。教育関係者向けのセミナーに登壇した後に、ニコンの可搬型VVシステムの担当者の方と名刺交換をしたことがきっかけです。その後、ニコンでデモンストレーションを見学したときには、最先端技術に生徒が触れる重要性を強く感じ、ボリュメトリックビデオを授業にどのように活用するか、教員の授業のデザイン力にも良い課題になると感じました。」
原宿外苑中学校校長の駒崎先生は、ボリュメトリックビデオへの期待と、探究学習の授業への導入を決めた経緯を振り返りました。
授業に活用するボリュメトリックビデオは、2024年7月上旬、ニコンの可搬型VVビデオシステムで撮影されました。撮影に要した時間は、機材のセッティング含め、3年生全員83名の撮影をしても半日程度。ニコンの可搬型VVシステムの手軽さがよく表れています。
撮影後、ニコンからボリュメトリックビデオのファイルが提供され、原宿外苑中学校の生徒たち一人ひとりがその映像を解析し、課題となる動作の改善方法を検証しました。その後、各クラス(3クラス)で6名の代表者を中心としたチームを編成し、2024年10月25日の保健体育の授業において、チームごとに探究の成果発表が行われました。数学・物理学の理論を導入するチーム、体の動作を合気道の動きと関連付けて研究するチーム、バレーボールを世界経済の視点から考察するチームなど、多様な視点で課題解決にあたりました。
生徒たちは、静止画や2次元の動画、ボリュメトリックビデオを確認しながら、自分たちの仮説を検証。その中でもボリュメトリックビデオの情報は、上下左右360°で動きを確認できる3Dの映像情報から、いろいろな気づきを生徒たちに提供することができたようです。
「仮説や、課題解決の方針の設定、成果検証といった、これまでの探究学習に利用した。あらゆる視点から人の動きを確認でき、非常に便利だった」
「教科書やネットにある資料に載っていない、様々な角度から選手がボールを返す様子を3Dで確認でき、多角的な視点で探究できたのがよかった」
「多方向から見られる映像により、自分の仮説を検証するための正確性を高められたところがいいと思った。ほかの教科でも活用してみたい」
これらは、各チームの代表者のボリュメトリックビデオに対する感想です。
「見えないものを見えるように」と、レンズ、双眼鏡、カメラと取り組んできたニコン。ボリュメトリックビデオもその流れのなか、人の知覚技術を拡張し、記録する技術のひとつです。ニコンの可搬型VVシステムは、これまでも学校教育はもとより、文化の伝承や技術研修などでも活用されてきました。
ニコンの可搬型VVシステムは、その名の通り持ち運びができ、どこでも撮影できるのが最大の特徴です。屋内であれば、実際の環境下(例えばバレーボールの撮影であれば体育館)で撮影とデータの取得を行うことができます。そのため、活用事例のような様々な現場での撮影を可能とします。また、生成したボリュメトリックビデオは、ブラウザで確認できるという利便性を有しています。原宿外苑中学校の生徒たちは、マニュアルなしで、タブレットのブラウザ上で再生スピードや視点を自在に調整しながらで360° の方向で表現される映像を確認していました。
相似によるボールの落下点を探究したチームの代表者、五島優季さんは「動作をいろんな方向から見ることができる3Dは、動きのイメージの検証にとても役立ちました」とコメントしました。
「一方向ではわからないことを、多方向から動きを確認することで(学んできた)合気道の動作と結びつけるきっかけをつかむことができました」と、家村 伊吹さんは語りました。鞭の動きとバレーボールにおける人の手の動きを探究した家村さんたちのチームならではのコメントです。このチームが、良い動きと、うまくいかなかったときの動きを、ボリュメトリックビデオで多面的に比較、検証を試みた結果の言葉です(冒頭のボリュメトリックビデオの動画はうまくいかなかったときの動きです)。
専門的な知識や特別な環境を要することなくボリュメトリックビデオが撮影できるこのシステムは、今後、次世代へ記録を残すという役割はもとより、運動技能の向上、社会課題解決のための気づきの提供、好奇心・創造性の喚起など、教育現場での活用が期待されています。私たちは、様々な現場での可搬型VVシステムの活用を提案していくとともに、このシステムが提供できる「学び」の可能性を、学校や地域の教育施設などへの普及によって拡げていくことを目指していきます。
可搬型VVシステムの開発者から
ボリュメトリックビデオは空間そのものを3次元データとして動的に記録する技術で、自由に視点を移動しながら再生すること可能であり、その自由度の高さから映像表現領域での利用が主体となっています。しかし、専用のスタジオを必要としないニコンの可搬型VVシステムでは、教育現場での活用が大きく期待されています。
生徒や教員の移動が不要で、近くにスタジオがない地方でも、等しく実際の教育の現場で撮影することが可能となり、導入のハードルを下げることができると考えます。撮影時には基本、クラウドの環境を必須としていないため、ネットインフラに対応する心配はありません。撮影システムは、宅配便で送れる120サイズのキャリーケースに収納できるので、運搬も簡単です。
現在、ニコンのラボで可搬型VVシステムを体験することができます。お気軽にお問い合わせ下さい(要事前予約)。
関連するSDGs
持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)
国際社会が持続可能な発展のために2030年までに達成すべき目標で、国連総会が2015年に採択した。貧困、飢餓、教育、気候変動に関してなど、合計17の目標からなる。