カーボンニュートラルを目指す、航空機の技術革新-リブレット加工
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掲載内容は2023年6月現在の情報です。
リブレットとは、サメの肌をモチーフにした人工的な微細構造のことを指します。飛行機の機体や風力タービン、ガスタービン、ジェットエンジンなどのタービンブレードに施すことで、エネルギー効率向上や燃費改善、CO2 削減が期待されています。
ニコンは独自のレーザー加工技術を活用し、リブレットを様々な製品に施すことで、持続可能な社会の実現に貢献します。
サメの肌に着想を得たサステナブルな加工技術
サメの肌の表面は、目には見えないミクロの鱗で覆われており、この鱗の形と配列が水の摩擦抵抗を低減し、サメが非常に速く、効率的に泳ぐことを可能にしていると考えられています。
リブレット加工とは、その表面構造を模倣し、素材の表面に周期的で微細な溝を作り、水や空気中を移動する際の摩擦抵抗を低減させる加工です。1970年代後半から研究が始まり、水泳選手のスイムウェアなどに採用されてきました。こうした自然界の進化をお手本に、新たな技術を実現することを生物模倣技術(バイオミメティクス)と言います。
ニコンの光加工機(レーザー加工機)は、金属、樹脂、繊維強化プラスチックなど、様々な素材に対応します。また、3次元の複雑な曲面にもリブレット加工を施すことができます。
動画「Power of light technologies」
世界を変えるアプリケーションを備えたニコンの光技術は、これからの産業に無限の可能性をもたらします。
ニコンが開拓する材料加工ソリューションをご覧ください。(1分57秒)
未来に向けて広がるリブレット加工の可能性
サステナビリティが最重要テーマの1つとなった現代、リブレット加工はエネルギー効率が求められる様々なビジネス分野への適用が検討されています。その範囲は、従来より適用が検討されてきた航空機やレースカー、風車に加え、ガスタービンやプロペラ機、ドローン、ポンプ、家電製品など、多様な広がりを見せています。ニコンはそうした製品を扱う外部の企業様と共に、効果の事前予測からお客様製品での効果検証実験、量産加工まで一気通貫でのサービスを提供しています。
特別塗装機「ANA Green Jet」での実証実験
ANAグループでは、持続可能な社会の実現と企業価値向上を目指し、「環境(Environment)」、「社会(Social)」、「ガバナンス(Governance)」に配慮したESG経営を推進しています。ESGをより身近なものとして活動を推進していくにあたり、2021年6月に「ANA Future Promise」を立ち上げました。その取り組みの一つとして、ニコンのリブレット加工を施したフィルムを装着した特別塗装機「ANA Green Jet」2機の運航を、2022年10月5日から順次開始しています。リブレットフィルムは、気流の激しい「主翼付け根付近」と「胴体上面」の一部に装着されており、実用化に向けて耐久性をはじめとした各種技術検証が行われています。リブレットフィルムをANAが保有するすべての飛行機に展開した場合、約2%の燃費改善効果、結果として1年間で25mプール約260杯分(約80億円分)のジェット燃料、約30万トンのCO₂削減が期待されています。
■リブレットフィルムをANAが保有するすべての飛行機に展開した場合の想定効果
【効果算出条件】解析上低減効果6.17%×機体表面80%加工×巡航高度飛行時間90%等の諸条件による想定値を、現保有機全機に適応した場合を想定。(ニコン算出値)
企業トップが語る、
サステナブルな未来の実現に挑む企業間/異業種コラボレーション
「環境」「人権」「地域創生」「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)」の4つの重要課題に事業活動を通じて取り組み、社会的価値と経済的価値を同時に創出することで持続可能な社会の実現と企業価値向上を目指すANAグループ。
2022年4月に発表した中期経営計画において、2030年のありたい姿として「人と機械が共創する社会の中心企業」を掲げ、「インダストリー」と「クオリティオブライフ(QOL)」の2つの価値提供領域の事業を積極的に展開、社会・環境に配慮した「事業」により社会的価値を生み出すことを宣言したニコン。
ともにサステナブルな未来へ向けた挑戦を続ける企業の経営者として、芝田浩二氏(ANAホールディングス代表取締役社長)、馬立稔和(ニコン代表取締役 兼 社長執行役員)が、持続的な社会実現において企業が果たす役割、ビジョンを語りました。
カーボンニュートラルを目指す特別塗装機「ANA Green Jet」を支える
ニコンの革新的ソリューション「リブレットフィルム」
馬立:まず始めに、「ANA Future Promise」特別塗装機「ANA Green Jet」の取り組みが、第31回地球環境大賞 国土交通大臣賞を受賞されたとのことで、誠におめでとうございます。
当社リブレットフィルムの実証実験を実施いただいている特別塗装機「ANA Green Jet」をはじめ、ANAグループが推進されているESG経営は大変素晴らしく、またそういった社会的に意義の高い取り組みを持続的に実現されていく姿は、まさにプロフェッショナルの仕事だと思います。
芝田:ありがとうございます。われわれ航空業界にとって、脱炭素化の推進、カーボンニュートラルの実現は喫緊の課題です。各社で様々な取り組みが行われていますが、私が一番期待しているのは技術革新です。ご提供いただいているリブレットフィルムは、まさに革新的なソリューションだと思います。現在、特別塗装機「ANA Green Jet」2機にリブレットフィルムを装着していますが、是非とも実証実験の検証をしっかり行い、効果を確認した上で他の機材にも展開をしていきたいと考えています。
馬立:リブレットの実用例としては、20年程前に表面がリブレット形状になったスイムウェアが登場し、競泳の歴史において画期的な出来事として話題になりました。ただ、リブレットの実用拡大は、未だ多くの課題があります。
当社のリブレット加工も、本当の苦労はこれからですね。ニコンが新しい事業領域を模索するなかで、「レーザーを使った機械加工を今までと違う形でやろう!」というスローガンを掲げたとき、学生時代にリブレット関連技術を研究テーマにしていた社員から、レーザー加工であれば微細な構造を作れるということが提案されました。現在、当社のリブレットフィルム開発を統括している社員です。
初めは少し驚きましたが、サメの肌の表面構造、つまり生物のメカニズムを原理としていることから奥深く、非常に良いテーマだと考えました。リブレットフィルムの実用化には、耐久性はもとより、ESGの観点からより効果の高い加工や形状などの検証を今後も実施する必要があります。こうした課題を見据え、長期的視点で取り組むことで、企業としても事業を通じて社会に貢献したいという想いを叶えるものと思っています。
飛行機は多面体ですので、部位ごとによる合わせ込みなど、難易度の高い技術が求められますが、われわれのような技術をとおして価値を提供する企業としては、挑戦のレベルが高いほど燃えます。
ESG経営をとおして目指す企業としての社会貢献
芝田:ANAグループが発表した2023~2025年度中期経営戦略ではESG経営の推進を掲げておりますが、その中でもわれわれ航空業界において環境問題は大きな課題です。まずやるべきことは、あらゆる手法、手段を活用してCO2排出そのものを抑えることです。持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel, SAF)や、Negative Emissions Technologies(CO2を回収・吸収し、貯留・固定化するCO2除去技術)の活用にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。そして、これらをより効果的にする技術革新が航空機にも必要であり、リブレットフィルムは、非常に魅力的な新しい技術なのです。
私は若い頃からニコンのカメラの大ファンなのですが、今回リブレットフィルムに出会えて、カメラ以外でもニコンの絶対的な品質、技術に触れ、感銘を受けました。とても期待しています。
馬立:ニコンは元々機器メーカーで、どちらかというと付加価値に重きを置いた製品、サービスを主軸としてきました。こうした事業の特性から、エネルギーや環境課題への対応は、自社の事業活動のなかでの改善が中心でした。しかしながら、社会課題としての重要性の高まり、それに呼応して急速に変化するニーズに応えるため、これまで培った光利用技術と精密技術を活かした社会課題の解決に取り組もうとしています。リブレット加工は非常にわかりやすい事例ですが、リブレット加工以外でも、映像事業をとおして人々の心を癒す、ヘルスケア事業をとおして人々の、健康維持をサポートする、精機事業をはじめとしたエレクトロニクス事業をとおしてエネルギーや環境問題へのソリューションを提供することなど、様々な領域に価値を提供していくために、皆で議論を重ねています。
芝田:飛行機に乗って非日常の世界に身を置いたとき、なんだかワクワクした気持ちになりますよね。先に申し上げましたが、ニコンのカメラの大ファンの私は、カメラを触るだけでワクワクした気持ちになります。ニコンの製品は、ワクワクがユーザーに伝わってきます。これからも、是非そういったものづくりに励んでいただければと思います。本当に期待しています。
関連するSDGs
持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)
国際社会が持続可能な発展のために2030年までに達成すべき目標で、国連総会が2015年に採択した。貧困、飢餓、教育、気候変動に関してなど、合計17の目標からなる。
写真:深澤 明
- ※メインビジュアルとリブレットフィルムの画像を除く。