微生物の生理的状態を最短10分で定量的に評価し、識別する技術を開発

水質汚染の低減などへ応用でき、持続可能な社会の実現に貢献する

2020年12月7日PRESS RELEASE/報道資料

株式会社ニコン(社長:馬立 稔和、東京都港区)の子会社、株式会社ニコンソリューションズ(社長:園田 晴久、東京都品川区、以下「NSL」)と、国立大学法人筑波大学(学長:永田 恭介、茨城県つくば市、以下「筑波大学」)は、微生物の生理的状態を高速かつ定量的に評価し、識別する技術を開発しました。

NSLと筑波大学は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(理事長:石塚 博昭、神奈川県川崎市、以下「NEDO」)のスマートセルプロジェクト※1に参画しています。
このたび、NSLと筑波大学の野村 暢彦教授と八幡 穣助教は、細胞評価技術「CRIF法」※2と自動解析ソフトウエア※3を開発。ニコンの共焦点レーザー顕微鏡システム「A1Rsi+」※4を用い、非染色・非侵襲でとらえた微生物の自家蛍光シグネチャー※5から、微生物の生理的状態を高速かつ定量的に評価し、可視化することで識別を容易にしました。NEDOのスマートセルプロジェクトで開発された、スマートセルを創出する基盤技術とあわせて活用することにより、従来、数日かかっていた微生物の生理的状態の評価・識別を、10分から60分程度の短時間で、高精度に行うことができました。ニコンは、本技術を画像統合ソフトウエア「NIS-Elements」に今後搭載する予定です。

本技術は、微生物をはじめ、植物や動物の細胞育種などの基礎研究や、再生医療の研究などに応用することができます。さらに、大量のデータを効率的に解析し可視化することで、水質汚染の低減や作物の育成環境の改良、人の健康状態の改善など、地球環境にやさしい、持続可能な社会の実現に向けた、さまざまな分野への展開が期待されます。

今回開発した技術は、「nano tech 2021 第20回国際テクノロジー総合展・技術会議」(12月9日~11日、於:東京ビッグサイト)のNEDOブースにて、パネルなどで展示します。

本技術の展開イメージ
※1 スマートセルプロジェクト
NEDOが進める「植物等の生物を用いた高機能生産技術の開発」プロジェクトの通称。このプロジェクトでは、植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を最大限に引き出した細胞「スマートセル」を作り出し、従来の化学合成法では生産が難しい有用物質の創製や、生産プロセスの低コスト化、低環境負荷を実現するための次世代技術の開発を進めている。
※2 CRIF(Confocal Reflection microscopy-assisted single-cell Innate Fluorescence)法
細胞内のタンパク質や代謝産物は、さまざまな波長・強弱の自家蛍光を発しており、それらを総合した自家蛍光シグネチャーは各細胞の性質を表現する「指紋」として機能する。CRIF法は、反射顕微鏡法で細胞の位置および形態情報を、共焦点レーザー顕微鏡法により細胞の自家蛍光情報を取得する。そして、1細胞ごとに画像解析を行うことで、体系的かつ総合的に各細胞の自家蛍光情報を抽出し、自家蛍光シグネチャーとして再構築することにより、各細胞を識別する「細胞の指紋」を取得することができる。さらに、「細胞の指紋」をさまざまな種類の機械学習に供することで、自家蛍光シグネチャーに潜在する細胞ごとの特徴を反映した機械学習モデルを構築することができ、高精度な細胞種の識別や、代謝状態の予測が可能であることが明らかとなった(図1)。これまでの研究では、生育段階の異なる細胞の識別や、緑膿菌および大腸菌において1遺伝子が変異しただけの細胞も見分けることが可能であった(図2)。
図1. CRIF法の概念図
図2. P.putidaおよびP.polymyxaの各生育段階における平均自家蛍光シグネチャー(上段)、ニューラルネットワークによる対数増殖期と定常期の細胞の分類(下段 赤:P.putida、青:P.polymyxa)
※3 自動解析ソフトウエア
細胞が混在する画像から、目的の細胞を自動的に抽出して画像処理・解析し、細胞の生理的状態を可視化するソフトウエア。
従来の解析方法では、大きさや形状、種類の異なる細胞が混在する画像から、1細胞ごとに画像処理・解析を行い、細胞の生理的状態を可視化する作業に数日かかっていた。自動解析ソフトウエアにより、ワンステップで大量の画像データをビューワー画面で同時に表示することができる。その結果、大幅な時間短縮と大量のデータの可視化を実現した(図3)。
図3. 自動解析ソフトウエアのビューワー画面のイメージ
※4 共焦点レーザー顕微鏡システム「A1Rsi+」
販売終了製品。現在販売している後継の機種は、共焦点レーザー顕微鏡システム「A1R HD25」。
※5 自家蛍光シグネチャー
細胞に対する蛍光タンパク質導入や、蛍光染色といった後天的な蛍光と比較し、細胞や物質が先天的にもっている蛍光の特徴。

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