社外取締役対談
この対談は2024年5月に実施しました。
- 村山 滋
- 社外取締役(監査等委員会委員長)
川崎重工業株式会社において代表取締役社長などの要職を歴任。
2020年6月、当社社外取締役に就任。
- 澄田 誠
- 社外取締役
TDK株式会社取締役会長などの要職を歴任。
2022年6月、当社社外取締役に就任。
新経営体制への移行
社長選任プロセスと社外取締役が果たした役割
澄田:2024年4月1日に、馬立氏が代表取締役 兼 会長執行役員CEOに、德成氏が代表取締役 兼 社長執行役員COO 兼 CFOに就任し、当社は新たな経営体制になりました。約2年前から社長後継者候補のリストアップを進めていましたが、2022年度から始まった中期経営計画(以下、本中計)の折り返しの年となる2024年度を迎えるにあたり、その先の成長を見据えてどのような経営体制が望ましいのかを検討する中で、2023年末から本格的に新社長選任プロセスを開始しました。まず指名審議委員会で議論を始めましたが、社長選任という最重要事項であるため、取締役会で適切な意思決定ができるよう、指名審議委員会委員に限らず社外取締役全員と候補者との複数回の面談を設けました。そのうえで、私が議長を務めている指名審議委員会で審議し、取締役会で正式に決定しました。
村山:候補者との面談は、オープンでざっくばらんな雰囲気で進めることができたと思います。当社に対する率直な想いや経営に関する考え方を聞き、また、面談を通じて、それぞれの候補者の人となりを知ることができました。
澄田:指名審議委員会設置後の社長選任は初めてでしたが、意見がスムーズにまとまっていったのは、社外取締役を含めて活発にコミュニケーションが図れたことが要因だと思います。事前に社外取締役も候補者との面談の機会を持ったことで、指名審議委員会及び取締役会の中で、これからの当社にはどのようなリーダーが必要か、またその適任者について、共通認識を持つことができました。
次のサクセッションに向けて
村山:今回の社長選任時点の指名審議委員会は、当時の取締役会議長である牛田氏(社内取締役)と社外取締役4名の計5名で構成され、当時社長の馬立氏もオブザーバーとして議論に参加し、次期社長への想いや候補者の推薦理由を説明しました。その経験を踏まえて、執行側のトップも指名審議委員会の委員として、自らの考えを伝え、同じ立場で議論できる体制が適切と考え、株主総会後の取締役体制では、馬立氏と德成氏も指名審議委員会の委員に加わる予定です。引き続き我々社外取締役は、社外の視点から選定プロセスに透明性や公平性を確保する役割を果たしていきたいと考えています。
澄田:今回の新社長選任プロセスを経験し、今後は経営トップを決めるだけではなく、後継候補となりうる人材を社内外問わず早くから見出し、より時間をかけて議論するとともに、後継者の育成を進めていく必要があると感じました。多岐にわたる当社の事業全体を把握するためには、候補者には幅広い経験を積んでリーダーとしての素養を高めてもらうことが望まれます。
新経営体制への期待
澄田:新社長の選任にあたっては、当社の置かれている事業環境を鑑み、当社グループ全体の力を一段引き上げ、会社を成長させていくためにはどのような人物が適任であるか、という観点で議論を進めました。
村山:その結果、本中計を馬立氏と共に策定し、CFOとして財務に止まらない視点で全社戦略を推進してきた德成氏が適任との意見にまとまっていきました。当社は、過去の中期経営計画の数値目標が未達であったという経緯があります。本中計も、コロナ禍の影響からのV字回復を果たしてはいるものの、目標達成はなおチャレンジングであり、德成氏の知見、経験が必要と考えています。
澄田:德成氏は特定の事業に偏らず、全社的な視点で当社の事業課題を認識し、的確にアプローチしている印象があります。普段から各事業部と密に接し、当社生え抜きの人と感じるほど個々の事業を本質的に理解しており、取締役会でも我々に大変分かりやすく説明しています。海外経験も豊富で、グローバルな視点も持ち合わせており、当社のリーダーに相応しい人材だと感じています。
村山:当社の経営陣に加わりわずか4年での社長選任に德成氏本人は驚いたようですが、同氏はすでに当社を深く理解しており、我々は全く心配していません。今後は社長として、より内部に入り込んで改革を進めてくれることを期待しています。
澄田:新経営体制では、異なるバックグラウンドを持つ馬立氏と德成氏の二人が両輪となることで、本中計の達成とその先の成長を実現させていって欲しいと考えています。
中期経営計画の進捗とその先
中期経営計画のモニタリングと当面の課題
村山:2024年度を含め本中計はあと2年を残すところとなりました。本中計については、年に2回執行側から取締役会への進捗報告が行われており、個別に懸案事項がある場合は取締役会の議題に上げて状況説明がなされています。取締役会が本中計の進捗をモニタリングする上では、特に外部環境の変化を注視し、戦略の変更が必要ないかを確認していますが、折り返し地点では、環境の変化に対応して事業別の収益構成及び資本配分の見直しを行いました。
澄田:本中計では、進捗が計画通りでないものはその原因を取締役会で深く議論しています。例えば、数値目標に対して進捗が遅れている場合、その原因は外部環境の影響なのか、当社の戦略が問題なのかなど、執行側の認識を掘り下げて確認し、取り組みに欠けている点はないかなどを取締役会でレビューをし、都度フィードバックしています。
村山:赤字だったヘルスケア事業も現在では黒字化し、新たな収益の芽も生まれています。また、2023年のドイツのSLM Solutions Group AG (現 Nikon SLM Solutions AG、 以下、SLM社)、2024年の米国のRED.com, LLC(以下、RED社)の子会社化と、成長が期待される市場でのM&Aも計画通り進んでいます。これらの事業を着実に育てていくため、取締役会でも、その進捗について適切なモニタリングを継続していくことが必要と考えています。
澄田:SLM社およびRED社のM&Aにより、大型のM&Aは一区切りついたので、今後は収益性の向上に加え、海外子会社を含むグループガバナンスが大きな課題になります。特に、大型買収した海外企業に日本企業がガバナンスを効かせるのは簡単なことではありません。取締役会では、とりわけ買収した子会社をどうハンドリングし、ニコングループとしてどのように経営管理を強化していくかを重点的にモニタリングしています。
それに加えて、国内の生産体制の整備などの設備投資についても、強化するタイミングに来ているのではないでしょうか。
村山:私も、買収した海外企業に対して当社はハンドリングがやや甘いと感じています。また、国内の生産体制についても澄田取締役と同じ考えです。実際に生産現場を見学した際に改善すべき部分が見受けられたため、取締役会では、生産設備にもっと資金をかけるべきとの意見を述べました。執行側も同じ課題認識を持っており、今回、本中計での資本配分見直しにより、M&A等の戦略投資から設備投資などの基盤強化に大きくシフトすることとなりました。
澄田:生産設備の増強により、長期的な収益貢献が期待できますし、人材確保の点でも従業員が働きやすい環境を整えることが重要です。積極的に競争力のある生産拠点への改革を進めてほしいと思います。
ニコンのこれから
澄田:当社は良くも悪くも技術志向の会社だと思います。その高い技術力を活かして収益性を高めるうえで、馬立氏が会長CEO、德成氏が社長COO兼CFOという経営体制は適切と考えています。2025年度は各事業とも収益が改善される見通しですが、本中計の目標を達成し、当社がさらなる成長を遂げていけるよう、今後も取締役会での活発な議論を重ねていきたいと思います。
村山:現状では収益性に課題があるのは確かですが、私は、当社が進んでいる方向は正しいと考えています。映像、精機といった主要事業に加え、コンポーネント事業、ヘルスケア事業、デジタルマニュファクチュアリング事業等も着実に拡大させていき、持続的な企業価値向上を目指してもらいたいと思います。